大判例

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名古屋高等裁判所 事件番号不明 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を津地方裁判所に差し戻す。

理由

前略

右檢事藤直道の控訴の趣意に付いて、

原判決が本件公訴事実中被告人が昭和二十三年一月三十一日宇治山田税務署に対し、昭和二十二年度所得額確定申告を爲すに際り、同年度の実際の所得額が金三十六万四千三百七十円四十銭なりしに拘らず、所得額金七万円なりと虚僞の申告を爲し、之に対し同税務署より金二十万円の更正決定を受くるや之を不服なりとして審査請求を爲し、昭和二十三年六月二十日同税署員が被告人方に実態調査に赴くや虚僞の帳簿を呈示して同人を欺き、因て同月三十日宇治山田税務署長より昭和二十二年度所得額を金十六万円に訂正を受け、以て所得税十五万九千百三円四十銭の逋脱を遂げたとの点に付、無罪の判決を言渡したことは洵に所論の通りであつて、之が無罪の理由として原判決の説示して居るところを、原判決に依つて観ると、被告人が昭和二十二年度の所得額三十六万四千三百七十円四十銭を金七万円なりと申告し、二十万円の更正決定を受け、之に対し審査請求を爲した結果、金十六万円に訂正せられた事実は之を認め得らるるも、右は被告人に於て同年度の所得税を逋脱する意思に基き詐欺その他の不正手段を用ひた結果であるとの証明は十分でないと請うに在る。併し乍ら、本件訴訟記録竝原裁判所に於て取り調べた証金に依れば、被告人方には昭和二十二年度の所得に関する正規の帳簿が存在していた事実竝被告人方では昭和二十二年度所得額確定申告を爲すに際し当初同所得額が金七万円なる旨の虚僞の申告を爲したところ、之に対し所轄税務署から金二十万円の更正決定を受けるに及び、之を不服なりとして審査請求をした結果、昭和二十三年六月二十日頃右税務署員から実態調査を受けるに至つたが、其の際同署員に対し、当時被告人方に存して居た前記所得に関する正規の帳簿を故らに呈示しなかつた事実を窺知し得られないこともないのであつて、此等の事実と原判決が其の理由中に於て認定して居る被告人が昭和二十二年度の所得額三十六万四千三百七十円四十銭を金七万円なりと申告し、二十万円の更正決定を受け之に対し審査請求を爲した結果金十六万円に訂正された旨の事実とを、彼是綜合して考えると、被告人が原判決の理由中に説示されて居るように昭和二十二年度の所得額に付金十六万円の訂正を受けたのは、畢竟被告人に於て同年度の所得税を逋脱する意思に基き詐欺其の他の不正手段を用いた結果に依るものと做し得られるが如くであり、此の点に関する原判決の事実認定には、誤認があることを疑わしめるに足る。蓋し右公訴事実の如き所得税法第六十九條違反の罪に於ける詐欺其の他の不正行爲とは、所得税逋脱の目的に依る虚僞帳簿の作成及之が呈示と謂うような作爲に依る場合は勿論、右逋脱を可能ならしめる所爲であつて、社会通念上不正と認められる一切の所爲を包含するものと解するを相当とするからである。然らば原判決が右公訴事実に付曩に掲記したような理由の下に無罪の言渡を爲したのは、前記所得税法第六十九條の解釈を誤解したに依るものでなければ、事実を誤認した違法に依るものと謂うの外なく、而も該違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、檢事竝弁護人の爾余の論旨に対する説明を俟つ迄もなく、原判決は既に右違法の廉に依り、破棄を免れ難く、結局檢事竝弁護人の本件控訴は孰れも其の理由あることに帰着する。

依て刑事訴訟法第四百條本文第三百九十七條に則り主文のように判決する。

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